2025.03.10
小林先生ご定年に際して専攻長からのメッセージ
令和7年3月吉日
小林修先生のご定年によせて
東京大学大学院理学系研究科化学専攻
専攻長 山田 鉄兵
2025年3月をもって、本専攻の教授である小林修先生が定年を迎えられます。小林先生の永年にわたる研究、教育および運営に関する多大なご貢献に、化学教室一同を代表して心より感謝を申し上げます。
小林先生は、日本が世界に誇る有機合成化学の第一人者として、永年にわたりご活躍をされてこられました。その代表的な研究業績に、水中における有機合成化学やフロー精密合成が挙げられます。その成果は830編以上の原著論文として公開され、総被引用回数は6万回以上に上る抜きん出た業績を挙げられました。また日本IBM科学賞、名古屋シルバーメダル、王立化学会フェロー、本学術振興会賞、C.S. Hamilton Award、Arthur C. Cope Scholar Award(アメリカ化学会賞)、フンボルト賞、グリーン・サステイナブルケミストリー賞文部科学大臣表彰、アメリカ科学学振協会フェロー、東レ科学技術省、日本化学会賞、紫綬褒章などの数え切れない国内外の一級の賞のご受賞や、国内外の数多くの大学および研究所における客員教授、Chemical ReviewsのAdvisory Boradを含む多数の雑誌の編集委員なども務められました。これらのご業績に対して、ここに心より賞賛の意を表したいと存じます。
個人的な話にはなりますが、私が小林先生のご研究に初めて触れたのは中学生頃の記事でした。当時の私にとって有機物とは油のことで、この「有機物を水中で合成する」という記事は、「不可能を可能にする」実験科学の醍醐味を教えてくれました。小林先生はさらに固定化触媒を用いるフロー精密合成へご研究を展開され、原料を複数のカラムに連続的に通過させて多段階反応を進行させ、合成が難しい医薬品を極めて効率的に合成するシステムを開発されました。この手法は触媒や中間体の分離操作が不要であり、医薬品に限らず、広くファインケミカルの製造に応用可能であり、地球環境の保全と産業の発展に寄与する素晴らしいご業績であります。
小林先生の実直で率直なお人柄、そして研究と同様に、常に前を向き、情熱を持って進まれる姿勢にも、いつも感銘を受けておりました。向山先生・奈良坂先生の伝統を引き継がれながら、多くの学生を育成され、素晴らしい業績を挙げる研究者を輩出されました。小林研はソフトボール大会やサッカー大会でも毎回優勝候補の筆頭となり、小林先生ご自身も剣道部の顧問を担当されるなど、学科内外の学生の活動にもご助力為されました。
教授の同僚として記憶に残っていることとして、化学教室誕生の地の記念碑があります。2023年に千代田区と交渉し、理学部化学科の前身である蕃書調所の創設の地に記念碑を建てることにもご尽力くださいました。化学教室の歴史の重要な第一歩を刻むことができたことに、心より御礼を申し上げます。

4月からは小林先生は正式には化学専攻を離れ、東京大学本部直轄である東京大学総括プロジェクト機構「グリーン物質変換」総括寄附講座の特任教授として、新たな研究の道を歩まれます。
小林先生のご偉業とご尽力にあらためて感謝するとともに、今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。