東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻・理学部化学科

卒業生からのメッセージ

化学専攻(博士課程)を修了された卒業生からのメッセージです。

森圭太
森 圭太(Keita MORI)
2023年3月修了 生物無機化学研究室
博士論文の内容について教えてください
DNAの会合状態の新たな動的制御法として、配位子修飾ウラシル塩基を用いた金属イオン応答性塩基対スイッチングを提唱・実証しました。5位に金属配位子を導入した修飾ウラシルは、天然型の水素結合型塩基対に加えて、金属配位結合によって架橋された金属錯体型塩基対も形成することができます。これら二種の塩基対の相互変換を利用して、Gd(III)イオンに応答するDNA鎖交換反応を開発しました。さらに、DNA分子ピンセットと呼ばれる分子マシンの開閉をGd(III)イオンの添加・除去によって可逆に制御しました。
化学専攻に進んだきっかけは?
高校生の頃から物理・数学に苦手意識があった一方で、化学にはなんとなく興味があり、大学でも化学系の学科に進学しようと考えていました。周りには工学部に進学する友人が多かったですが、他人と違った道の方が面白いと思い、理学部の化学専攻への進学を決めました。工学部の化学系と比べて、様々な分野の化学研究が幅広く行われていることも決め手の一つでした。
後輩へのメッセージを
化学専攻では、基礎研究から応用研究まで、物理・無機・有機化学分野を網羅した幅広い研究がトップレベルの環境で行われています。化学に少しでも関心がある人なら、必ず自分の興味・生活リズムに合った研究室を見つけられるはずです。もちろん卒業・修了には一定の研究成果が必要ですが、他の研究室・学科や学外にも交友関係を作り、研究や実験だけではない、バランスのとれた学生生活を送ってください!
Message in English
The Department of Chemistry is featured by a wide range of research spanning from basis to applications and covering physical, inorganic, and organic chemistry in an excellent environment. If you are interested in chemistry, you will surely love doing research in this department. I hope you will enjoy your student life including both research activities here and other recreation with your friends outside the lab!
菅野 寛志
菅野 寛志(Hiroshi Kanno)
2023年3月修了 構造化学研究室
博士論文の内容について教えてください
周波数分割多重という通信工学分野で広く用いられている技術を光イメージングへ応用し、イメージングの速度を向上させることで、多数の細胞を一つずつ高速に画像化できる装置を開発しました。また、開発した装置を用いて様々なバイオメディカルアプリケーションを実証しました。例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID19)患者の血液中の微小血栓を多数撮像し、その出現頻度と病態の重症度が強く関連していることなどを明らかにしました。
化学専攻に進んだきっかけは?
何となく工学系よりは理学系に進んだ方が純粋にサイエンスを追究できるかなと思っていました。また、私の進振りの頃は、化学専攻が授業を英語で行うと発表した時期と重なっていて、あまり人気がなかった(と記憶している)ので、逆に行ってやろうかいという気持ちで選びました。
後輩へのメッセージを
自分は学部生の頃、いわゆる“落ちこぼれ”で、ろくに勉強も出来ませんでしたが、研究室に配属されてからは研究が楽しく夢中になりました。化学専攻に限らず、自分の研究を本格的にスタートさせると途端に勉強や研究が楽しくなるということもあるので、今現在勉強に対する情熱を失っている方も、諦めずに続けてみてください。また、一度立ち止まってみるのも良い経験かと思います。
Message in English
As a student, you have a unique opportunity to immerse yourself in your research and explore your interests to the fullest. Make sure to take advantage of this privilege and don't be afraid to push yourself to new heights. Enjoying your college life is also important.
道場 貴大
道場 貴大(Takahiro Doba)
2022年3月修了 革新分子技術(中村)研究室
博士論文の内容について教えてください
有機材料としての応用が可能な機能性小分子および高分子の精密合成を可能にする鉄触媒C–H/C–Hカップリング反応を実現しました.従来のC–H/C–Hカップリング反応はパラジウムなどの希少な遷移金属に依存する上に,反応を進行させるために強力な酸化剤が必要であることから,電子の授受を行いやすい機能性有機材料合成への適用が困難であるという課題がありました.そこで私は地球上に最も豊富に存在する遷移金属であり,低い酸化還元電位を有する鉄の反応性に着目し,温和な酸化剤存在下,高効率かつ位置選択的に反応を進行させる触媒の開発に成功しました.
化学専攻に進んだきっかけは?
幼い頃から未知のことに対してなぜだろう思う好奇心があり,理学部を目指していました.その中でも化学は思いついた仮説を実験で確かめることができ,特に面白そうだと思ったので化学専攻を選びました.
後輩へのメッセージを
化学専攻には学生・教員ともに高みを目指して日々努力している人たちがたくさん集まっており,自分の能力を最大限引き出してくれる環境が揃っています.ぜひ進学を考えてみてください.
Message in English
The students and the staff members in this department are highly motivated and will help you a lot to aim higher. I hope you join this department and enjoy the exciting research life.
西 孝哲
西 孝哲(Takanori Nishi)
2021年3月修了 量子化学研究室
Photoelectron-Ion Correlation in Photoionization of a Hydrogen Molecule and Molecule-Photon Dynamics in a Cavity
博士論文の内容について教えてください
フェムト(10-15)秒やアト(10-18)秒オーダーの非常に短いパルスレーザーを用いると、時々刻々と変化する分子や電子の運動を調べられます。特に水素分子の光イオン化によって生成する光電子と水素分子イオンの運動に着目し、これらの粒子間の量子力学的相関を、量子情報科学で発展した手法を用いて定量化しました。また、この相関の影響によって、水素分子イオンの運動にはアト秒オーダーのずれが生じうることを、理論計算によって示しました。
化学専攻に進んだきっかけは?
量子科学、特に量子化学に興味があり、最先端の実験をしている実験家とも議論できる環境で理論研究をしたいと思い、修士課程から化学専攻に進学しました。
後輩へのメッセージを
最初は難しそうに思える研究テーマでも、実際に取り組んでみるとだんだん理解できるようになります。少し背伸びしてでも、本当に面白いと思える研究テーマを選ぶと、5年間はあっという間に過ぎると思います。
Message in English
If you choose the research theme that you really think is interesting, even if it seems a bit too difficult for you, your PhD life will be full of fun!
遠藤 健一
遠藤 健一(Ken-ichi Endo)
2020年3月修了 生物無機化学研究室
Kinetically Controlled Stepwise Syntheses of a Heterometallic Complex and a Tetrahedral Chiral-at-Metal Complex
博士論文の内容について教えてください
複雑な構造の金属錯体を選択的に合成する新しい方法を2つ開発しました。1つは酸化還元と金属交換を組み合わせた手法で、CoIIとNiIIを所定のサイトに有する錯体を合成できることを示しました。もう1つは強配位性で剛直な三座配位子とキラル補助剤を用いた手法で、四面体型の不斉金属中心をエナンチオ選択的に構築できることを示しました。
化学専攻に進んだきっかけは?
大学入学前から化学に惹かれていました。特に、目に見えない分子どうしの反応を操り、新しい物質を合成できる点が好きでした。化学を扱う専攻の中でも理学系研究科化学専攻は新しい物質の合成に注力している研究室が多く、最も自分のやりたいことに合っていると感じ、進学しました。
後輩へのメッセージを
化学専攻では人的・設備的に恵まれた環境で研究を行うことができます。また、物理化学・無機化学・有機化学と幅広い分野をバランスよくカバーするよう研究室が設置されているため、化学全体を俯瞰するように学ぶことができます。また、国際化が進んでおり英語での研究コミニュケーション力も身につけることができます。化学が好きだという人には化学専攻への入学をおすすめします。
Message in English
The Department of Chemistry offers renowned faculty and state-of-the-art facility. The research fields cover the whole range of physical, inorganic, and organic chemistry evenly, which gives you an extensive overview of chemistry. If you like chemistry, the Department of Chemistry is a perfect choice. The Department is also highly internationalized with many international students and faculty.
林 峻
林 峻(Shun Hayashi)
2019年3月修了 化学反応学研究室
博士論文の内容について教えてください
6価や8価といった高い負の価数を持つアニオン性金属酸化物クラスターの塩基触媒作用に着目し、その構成元素種、局所構造、対カチオン種といった構造因子が触媒作用に与える効果を詳細に検討しました。例えば、二酸化炭素の有用化合物への変換反応について、反応機構の実験的な検討と量子化学計算を使った解析の両面から取り組み、二酸化炭素の活性化に重要となるクラスターの構造因子を明らかにしました。
化学専攻に進んだきっかけは?
身のまわりの現象を決める何かを知りたいと思いから理学部への進学を考えていました。中でも自分の手であれこれ実験できる学問である、化学を選びました。化学科の学部3年時の学生実験が充実している点もきっかけとなりました。
後輩へのメッセージを
最先端の研究環境で、高い志を持った研究室メンバーとともに日々研究に取り組んだ経験はかけがえのないものでした。自分の興味にじっくりと向き合い、研究を楽しんでください。
Message in English
The department offers you the opportunity to work with outstanding researchers in an excellent research environment. I hope you will have time to explore your interests and enjoy your research.
齋藤 由樹(Yuki Saito)
2018年3月修了 有機合成化学研究室
博士論文の内容について教えてください
次世代の有機合成手法として着目される連続フロー合成に有効な不均一系触媒反応の開発を行いました。固体塩基触媒による炭素骨格構築反応と担持パラジウムナノ粒子触媒による種々の官能基の水素化反応の開発を行い、環境調和型のフロー合成手法を構築しました。また、開発されたフロー反応を組み合わせることで、2種類の医薬品原体の触媒的連続・連結合成を達成しました。
化学専攻に進んだきっかけは?
紙の上で自由に分子を設計し、合成を通じて現実の物質として生み出す事ができる化学に魅力を感じていました。特に化学専攻では合成を得意とする研究室が多く、自分の興味に合う研究ができるのではないかと考え、化学専攻に進学しました。
後輩へのメッセージを
化学専攻では好奇心を大いに刺激される基礎研究から実社会に大きなインパクトを与えうる発展的な研究まで、様々な最先端で魅力的な研究が展開されています。また、化学専攻での5年間の経験は今の研究者としての私の礎となっています。全力で研究に打ち込んでみたい方は是非、化学専攻への進学をお勧めします。
Message in English
We conduct a wide variety of research from fundamental chemistry which stimulates our curiosity to advanced chemistry which can change our society in the Department of Chemistry. My experiences in this department as a Ph.D. course student formed the foundation as an academic researcher. If you want to make all the effort into exciting research, I believe the Department of Chemistry is the best choice.
清 良輔(Ryosuke Sei)
2017年3月修了 固体化学研究室
平松 光太郎
平松 光太郎(Kotaro Hiramatsu)
2016年3月修了 分子物理化学研究室(永田研)
博士論文の内容について教えてください
化学反応途中の分子の3次元的な構造変化を追跡する方法の開発・応用の研究を行いました。特に、円二色性分光スペクトルを約10兆分の1秒の分解能で測定できるような方法を開発するとともに、励起子相互作用を考慮してスペクトルを解析することで反応途中の絶対配置の変化を解析できる枠組みを開発しました。
化学専攻に進んだきっかけは?
化学反応によってものの性質が全く変わる様子が不思議で面白く、その中身を理解したいと思い化学を学びたいと思いました。講義や学生実験で光を用いて分子の構造やその変化を調べることが出来ると知り、強く興味を惹かれ進学を決めました。
後輩へのメッセージを
大学院時代に自分の興味のあることを追求し、論文として発表することは大変ながらもとても得難い経験だと思います。自分自身、実験や解析を試行錯誤するプロセス、結果が得られる瞬間の興奮、学会での国内外の研究者との交流といった大学院時代の経験が今の研究活動の基礎となっています。ぜひ研究を楽しんでください。
Message in English
I believe that pursuing one's own interests during graduate school and publishing papers based on your original research is a difficult but very rewarding experience. Thinking back on my days in graduate school, experiences such as the trial-and-error process in experiments and analyses, the excitement of obtaining results, and the interaction with domestic and foreign researchers at academic conferences, form the basis of my current research activities. I hope you enjoy your research!
  • 寺坂 尚紘
  • 寺坂 尚紘
寺坂 尚紘(Naohiro Terasaka)
2015年3月修了 生物有機化学研究室
Applications of Aminoacylation Ribozymes That Recognize the 3'-end of tRNA
博士論文の内容について教えてください
RNAの末端配列を認識してアミノアシル化を触媒するリボザイム(RNA酵素)を使い、改変遺伝暗号を用いるリボソーム翻訳系を構築しました。また、同様のリボザイムを別のアプローチで応用して、ヒトmicro RNAと生体小分子間の新規相互作用を発見しました。
化学専攻に進んだきっかけは?
私は博士課程から化学専攻に進みました。化学専攻の各研究室では化学関連分野の世界トップレベルの研究が行われており、海外の著名な研究者を招いたセミナーも頻繁にあります。このような非常に刺激的な研究環境に身を置きたいと考え、進学しました。
後輩へのメッセージを
化学専攻には他学部・他大学から進学する方々も多いので、興味のある研究室があれば臆せずに進学して頂きたいです。化学専攻でしか得られない貴重な経験がきっと得られるはずです。
Message in English
Many young talented students and staffs belong to the department of chemistry. People are doing various leading-edge research projects and have many opportunities to listen to the lecture of the researchers all over the world. I am sure that you will gain the valuable experiences in the department of chemistry.
西川 道弘
西川 道弘(Michihiro Nishikawa)
2013年3月修了 無機化学研究室
Photofunctionalization of Molecular Switch Based on Pyrimidine Ring Rotation in Copper Complexes
博士論文の内容について教えてください
銅の陽イオンに特殊な有機物を結合させた分子について研究しました。分子機械のように分子の一部分が回転運動を起こすように設計し、試薬をフラスコの中で混合して合成し分析を行いました。二重発光性や光による酸化還元特性の可逆変換を達成しました。
化学専攻に進んだきっかけは?
教養課程の実験の授業がとても興味深かったからです。実際に自分の手を動かし五感でその科学的背景を習うことができました。書籍だけでは得られない体験であり、どれも好奇心をそそられる課題だったように感じました。
後輩へのメッセージを
学生の時に習ったことや経験が役立ち感謝しています。研究について深く追求することができる最先端の研究環境でこころゆくまで学術活動を行い、将来の科学技術の発展を担う知識や技術、考え方を習得していただければと思います。
Message in English
I really thank for many helpful supports to learn researches for development of chemistry. I am happy if you can learn highly skillful activities to study recent topic in science in next decades.
松本 有正

松本 有正
松本 有正(Arimasa Matsumoto)
2012年3月修了 物理有機化学研究室
Iron-Catalyzed Synthesis of Fused Aromatic Compounds via C–H Bond Activation
博士論文の内容について教えてください
鉄触媒を用いた炭素-水素結合の切断を経るアルキンへの付加環化反応についての研究を行いました。炭素-水素結合を直接変換する反応は効率的な合成反応として着目されていますが,パラジウム、ロジウムなどの貴金属触媒を用いる例がほとんどでした。この論文の反応は有機金属試薬を過剰量用いる必要があるなどまだまだ実用面での課題を多く含んではいますが,普遍的に存在する鉄触媒を用ても炭素-水素結合の直接変換を行う事が可能であることを示しました。
化学専攻に進んだきっかけは?
ベンゼンやフラーレンといった分子の構造、形の面白さに惹かれ、実際に自分の手で自在に面白い形の分子を作ってみたいと思ったからです。
後輩へのメッセージを
化学は日用品、医薬品から先端材料まであらゆる分野に関わる物質を取り扱う学問であり、様々な研究分野と関わりがあります。個性豊かな専門性をもつ先輩,同期,後輩達と日々研鑽を積むことができることが化学専攻の魅力かと思います。是非,化学専攻で自分の好きな事を極めて行って下さい。
Message in English
Chemistry is a broad range of science that deals with substances in all kinds of fields, from daily necessities and pharmaceuticals to advanced materials. The fascinating thing about the Department of Chemistry is that you can study with your seniors, classmates, and juniors, all of whom have unique character and professional skills. I hope you will join the Department of Chemistry and do what you love to do!
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