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低活性基質の触媒的活性化法の開発

 原子効率に優れた反応を創製するにあたり、効率的なカルバニオン生成を伴う炭素−炭素結合生成反応の開発は重要な研究課題の一つです。中でも酸/塩基触媒による脱プロトン化を鍵とする分子骨格構築反応は、高い原子効率を実現できることから、最も重要な化学プロセスの一つであると言えます。しかしながら、酸/塩基触媒反応に適用できる基質は用いる触媒の脱プロトン化能に通常大きく依存しており、これまでに開発されている立体選択的酸/塩基触媒は、様々な基質に対して高い反応性や立体選択性を実現する一方で、その塩基性の低さ故に、用いることのできる求核剤前駆体の構造に大きな制限がありました。当研究室では、求核剤が求電子剤と反応する際に生成する中間体が次の基質を直接脱プロトン化する「生成物塩基機構」に着目し、強塩基性を発現する中間体を設計して系中の活性種の塩基性を維持するアプローチにより、エステルやアミド等の反応点に酸性度の低い水素原子を有する化合物の求電子剤への直接的触媒的付加反応の開発を行っています。


Topics

  1. 単純なエステルを用いる直接的触媒的Mannich型反応
  2. 単純なアミドの直接的触媒的不斉1,4-付加反応の開発

単純なエステルを用いる直接的触媒的Mannich型反応

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解説

 α位に活性化基を持たない単純なエステルやアミドは、同様のケトンやアルデヒドに比べてそのα位水素の酸性度が低いため、脱プロトン化をして求電子剤と反応させるためには通常化学量論量の強塩基が必要でした。今回、新たに強塩基性を発現する反応中間体をデザインすることにより、触媒量の強塩基である水素化カリウム(KH)を用いることで、エステルの触媒的付加反応を実現しました。筆者らの知る限り、本反応は、α位に活性化基を持たない単純なエステルを用いる触媒的Mannich型反応の初の例です。


論文へのアクセス

  1. Development of Strong Brønsted Base Catalysis: Catalytic Direct-type Mannich Reactions of Non-activated Esters via a Product-base Mechanism,
  2. Org. Biomol. Chem., 10, 5750-5752 (2012). DOI: 10.1039/C2OB25522G

単純なアミドの直接的触媒的不斉1,4-付加反応の開発

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解説

 そのα位に活性化基を持たない単純なアミドやエステルを用いる直接的触媒的不斉反応の開発は、有機合成化学において非常に難しい課題であると考えられてきた.今回、当研究室ではカリウム強塩基と光学活性大環状クラウンエーテルを組み合わせた不斉触媒を用いることにより、単純なアミドやエステルのα、β−不飽和カルボニル化合物への直接的触媒的不斉1,4-付加反応が高収率、高立体選択的に進行することを見いだした。本例は、単純なアミドやエステルを用いる直接的触媒的不斉1,4-付加反応の初めての例である。


論文へのアクセス

  1. Catalytic Asymmetric Direct-Type 1,4-Addition Reactions of Simple Amides
  2. Suzuki, H.; Sato, I.; Yamashita, Y.; Kobayashi, S.
  3. J. Am. Chem. Soc. 137, 4336 (2015). DOI: 10.1021/jacs.5b01943