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永木 愛一郎

北海道大学大学院理学研究院 化学部門 教授

 2005年、京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻 博士後期課程。博士(工学) 東京大学 博士研究員、京都大学大学院工学研究科 特任助教、助教、講師を経て、2019年より現職。2012年、有機合成化学協会 武田薬品工業研究企画賞。2012年、有機合成化学協会 有機合成化学奨励賞。2013年、化学とマイクロ・ナノシステム研究会 若手優秀賞。2013年、エスペック環境研究奨励賞。2019 年、有機合成化学協会・企業冠賞(東ソー・環境エネルギー賞)。

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A01 フロー高速反応速度論解析による低エントロピー反応空間の理論構築

 フローマイクロリアクターは反応原料や反応そのものを空間的に分割していることから、反応化学種が高度に秩序だって存在する「低エントロピー反応空間」であると言える。低エントロピー反応空間では原系への負エントロピー付与によるギブス自由エネルギーの向上が可能なため、反応の活性化エネルギーを相対的に減ずることができ、化学選択性の高い合成反応が達成できる。本研究では低エントロピー反応空間の理論構築を目指し、その定量的な評価に必須であり従来法では不可能な、反応速度を正確に算出できる「フラッシュクエンチフロー法」の開発を行う。本法はフラッシュケミストリー、すなわちフローマイクロリアクターによる低エントロピー反応空間内の高速合成論に基づいている。本解析法により低エントロピー反応空間における活性化エントロピー変化を算出し、同時にVillermaux–Dushman反応を利用して反応器の混合性能を定量的に評価することにより、これまで感覚的に把握されるだけであった「混合」と「活性化エントロピー変化」を結びつける新理論を構築することを目標として研究を進めます。


研究分野

有機合成化学、マイクロフロー合成化学


代表的な研究紹介

    高速合成化学:滞留時間制御による不安定活性種の合成的利用

    フラッシュケミストリーに代表される「時間を空間で制御するマイクロリアクター合成化学」は、フローマイクロリアクター内での滞留時間を精密に制御することにより、短寿命な活性種を速やかに発生させ、分解する前に次の反応に利用する方法論である。これまでにバッチ型反応器では扱うことのできない不安定活性種(特に有機リチウム種)を利用した合成反応を報告している。また高活性触媒の発生についても報告している。例えば酢酸パラジウムと一当量のトリ-tert-ブチルホスフィンから生じる単座パラジウム触媒は、鈴木・宮浦クロスカップリングにおける非常に高活性な触媒であるが、触媒発生直後から分解が進行し、十数秒程度で活性が減少してしまう。申請者はフラッシュケミストリーに基づき、フローマイクロリアクター内で触媒前駆体とホスフィン配位子を混合して触媒を発生させ、0.65秒後に反応基質へ加えることにより、発生した単座パラジウム触媒が失活する前に合成に利用し、高い収率でカップリング体を得ることに成功している。ミリ秒時間で反応時間を制御できる本手法の利用により、バッチ反応器では達成不可能な、不安定中間体を経由する合成反応が達成可能である。

  1. Flash Generation of a Highly Reactive Pd Catalyst for Suzuki–Miyaura Coupling by Using a Flow Microreactor.
  2. Nagaki, A. Takabayashi, N. Moriwaki, Y. Yoshida, J.
  3. Chem. Eur. J., 18, 11871–11875 (2012). DOI: 10.1002/chem.201201579

    高速合成化学:反応集積化

    「反応集積化」とは、多段階合成において中間体の単離精製を行わず連続的に反応を行う手法である。とくにフローマイクロリアクターを用いると、(1)のように通常は単離することのできない反応中間体を取り扱うことができるため、バッチ型反応器では不可能な連続反応が可能である。例えば、ジ(あるいはポリ)ブロモアレーン類のハロゲンーリチウム交換反応と求電子剤との反応を繰り返し行うことにより、非対称型の芳香族化合物合成が可能である。これを利用し、従来法では合成できないバイメタリックアレーン、すなわち芳香族上に異なる二種類の金属置換基を有する芳香族化合物合成を達成した。バイメタリックアレーンの合成法を確立したことで、これらを用いた分子変換法の開発が可能となり、実際に金属選択的なクロスカップリング反応を実現している。

  1. A Synthetic Approach to Dimetallated Arenes Using Flow Microreactors and the Switchable Application to Chemoselective Cross-Coupling Reactions
  2. Ashikari, Y. Kawaguchi, T. Mandai, K. Aizawa, Y. Nagaki, A.
  3. J. Am. Chem. Soc., 142, 17039-17047 (2020). DOI: 10.1021/jacs.0c06370

    高速合成化学:機械学習の活用

    高速合成化学を活用すれば、条件探索もまた高速に行うことが可能である。特にフローマイクロ合成と機械学習を組み合わせることで、複数のパラメータを有する反応系において膨大な反応条件の組み合わせが存在する場合の高速な反応最適化が可能である。例えば、フロー型の有機電解装置であるPEMリアクターを用いるアルキンの水添反応において、反応温度、反応時間、基質濃度の3パラメータを同時かつ高速な最適化を実現している。

  1. Investigation of Parameter Control for Electrocatalytic Semihydrogenation in a Proton-Exchange Membrane Reactor Utilizing Bayesian Optimization
  2. Ashikari, Y. Tamaki, T. Takahashi, Y. Yao, Y. Atobe, M. Nagaki, A.
  3. Front. Chem. Eng., Accepted, (2021). DOI: 10.3389/fceng.2021.819752.