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浅野 周作

九州大学先導物質化学研究所 助教

 1990年大阪府生まれ。2018年京都大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。京都大学大学院特定研究員を経て2018年11月より現職。2015年化学工学会学生賞(金賞)、京都大学大学院工学研究科馬詰研究奨励賞。

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A04 フロー反応シミュレーションによる低エントロピー反応空間の基礎理論と設計論の構築

 フローリアクターで反応を行うと、フラスコなどのバッチリアクターとは全く異なる反応結果が得られることがあります。しかし、差異が出る要因を明確に理解するためには、分子レベルでの反応過程はもとより、流体の速度分布や装置内部の温度分布までを考える必要があります。当研究では、そういった様々なスケールの現象を複合的・統合的にモデリングし、シミュレーションで検証していきます。また、化学工学的な観点から、反応を高度に秩序だって進めるための装置設計理論や、フローリアクターならではの操作方法を提案していきます。


研究分野

反応速度論、化学工学


代表的な研究紹介

    動的キラル分子のためのフロー式立体化学挙動解析装置

    生物は多くのキラル有機分子によって構成されており、そのほとんどは、鏡像異性体間で熱的な相互変換(ラセミ化)をおこさない炭素中心性不斉をもつキラル分子です。これに対して、鏡像異性体間で熱的に相互変換する動的キラル分子も存在し、それらには特異な生物活性や機能の発現が期待されます。九州大学先導物質化学研究所・友岡克彦研究室との共同研究で、動的キラル分子の最も基本的な性質である立体化学的安定性(ラセミ化のおこりやすさ)を効率的に自動分析できるマイクロフローシステムの開発に成功しました。マイクロフローシステムでは数秒~数分間の高温加熱を精密に制御することができるため、数時間~数日間掛けて中低温度でバッチ容器を用いて行っていた従来法に比べて極めて迅速な測定が可能になりました。本マイクロフロー法とバッチ法は相補的であり、両手法を組み合わせて幅広い温度領域で分析することで、動的キラル分子の立体化学挙動をより精密に評価できるようになりました。

  1. Analysis of Stereochemical Stability of Dynamic Chiral Molecules Using an Automated Microflow Measurement System
  2. K. Igawa*, S. Asano*, Y. Yoshida, Y. Kawasaki and K. Tomooka*.
  3. J. Org. Chem., 86, 9651 (2021). DOI: 10.1021/acs.joc.1c00914

    マイクロフローリアクターのスケールアップ理論

    マイクロフローリアクターは、小さな流路径に由来する高い混合性能と除熱性能を持つため、数ミリ秒以下の非常に高速な反応をも精密に制御することができます。しかし、工業規模での生産に用いる際には、マイクロリアクターといえども可能な限り流路径を大きくすることが必要です。本研究では、数値流体力学(CFD)計算での性能評価と可視化実験を組み合わせ、反応系に応じて必要十分な混合性能と除熱性能を担保できる流路径の決定方法を構築しました。また、提案手法に基づき、数ミリ秒以下での反応開始と停止が要求される、保護基フリーのハロゲンリチウム交換反応を10 L/hour の大容量で実施しました。

  1. Numerical and Experimental Quantification of the Performance of Microreactors for Scaling-up Fast Chemical Reactions
  2. S. Asano*, S. Yatabe, T. Maki and K. Mae
  3. Org. Process Res. Dev, 23, 807 (2021). DOI: 10.1021/acs.oprd.8b00356

    混合の非対称性を考慮したマイクロミキサー設計論

    フロー式のマイクロミキサーは、高速な反応の制御に有効ですが、混合中にミキサー内で起こる現象については、未解明のことも数多くあります。本研究においては、2液の流量や入口形状の違いによって生じる流れの非対称性に着目しました。臭素化反応試験やCFD計算から、非対称な流れにおいては、2液の導入口の入れ替えのみで劇的に反応成績が変化することを見出しました。そのうえで、短い混合時間と理想的な内部濃度分布を同時に得るための、マイクロジェットミキサー設計チャートを提案しました。

  1. Design protocol of microjet mixers for achieving desirable mixing times with arbitrary flow rate ratios
  2. S. Asano, S. Yamada, T. Maki*, Y. Muranaka and K. Mae.
  3. React. Chem. Eng., 2, 830 (2017). DOI: 10.1039/C7RE00051K