2016年10月26日〜2016年1月10日の間,vario MICRO cubeのカラムの取り付け方に不備があったことが分かりました.すべての試料について再測定の必要があるとは言えない状況ですが,水素の値に影響が出ている可能性があります.
ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません.再測定は無料で致しますので,今一度お手元の報告値をご確認くださいますようお願い申し上げます.
ナックテクノサービス 有機元素分析用標準試料
コードNo.: NAC-st1
試料名:N-(2-bromo-4-fluorophenyl)-4-chlorobenzenesulfonamide
組成式: C12H8BrClFNO2S
含有率%: C, 39.53; H, 2.21; N, 3.84 ; Br, 21.91; Cl, 9.72; F, 5.21; S, 8.79%
多元素同時分析を目的として開発された標準試料ですが,当分析室では各元素の含有量が少ないことを利用して,CHN分析およびハロゲン硫黄分析に使っています.このような標準試料はNACシリーズ以外にないのでとても重宝しています.
分子模型で表された立体構造
<参考文献>
長嶋 潜,平野 敏子, '固体試料中のハロゲン・陰イオン分析', ぶんせき, 2014, 3, p101-106.
2015年4月より炭素水素窒素分析の装置がvario MICRO cubeに切り替わった関係で,装置から出力される報告書のフォームも同時に新しいものになっています.遅ればせながら以下に各項目の意味について簡単に説明します.
Name: 依頼者の名前と試料記号
Weight [mg]: 試料量
Method: 測定メソッド.酸素の吹き付け時間や検出時の温度・測定時間などの設定.
N Area: 窒素に相当するピークの面積
C Area: 炭素に相当するピークの面積
H Area: 水素に相当するピークの面積
N [%]: 窒素の含有量
C [%]: 炭素の含有量
H [%]: 水素の含有量
N Factor: 窒素のデイリーファクター
(当日測定した標準試料の設定値と検量線から得られる実測値との比)
C Factor: 炭素のデイリーファクター
(当日測定した標準試料の設定値と検量線から得られる実測値との比)
H Factor: 水素のデイリーファクター
(当日測定した標準試料の設定値と検量線から得られる実測値との比)
N Blank: 窒素のブランク設定値(当分析室では補正していません)
C Blank: 炭素のブランク設定値(当分析室では補正していません)
H Blank: 水素のブランク設定値(当分析室では補正していません)
Info: Nu=窒素のピーク面積が検量線の下限値以下です.
No=窒素のピーク面積が検量線の上限値以上です.
Nnp=窒素が検出されませんでした.
Cu=炭素のピーク面積が検量線の下限値以下です.
Co=炭素のピーク面積が検量線の上限値以上です.
Cnp=炭素が検出されませんでした.
Hu=水素のピーク面積が検量線の下限値以下です.
Ho=水素のピーク面積が検量線の上限値以上です.
Hnp=炭素が検出されませんでした.
Date: 測定日
Time: 測定時刻
キシダ化学株式会社 有機元素分析用標準試料
コードNo.: 210-39995
記番号: SMA-SP-59
試料名:Indometacin インドメタシン
組成式: C19H16ClNO4
含有率%: C, 63.78; H, 4.51; N, 3.91 ; Cl, 9.91%
CHN分析の際,アンチピリンでデイリーファクターを取ってから他の標準試料を使って分析値に問題がないか測定日ごとに確認していますと前回ご紹介しましたが,こちらのインドメタシンも同じ用途で活用しています.逆に窒素の含有量が少ないため,チオ尿素の分析結果と合せることで検量線の両端に近い部分(完全に両端ではありませんが)を測定日毎に確認していることになります.
また,塩素を含有しているため,酸素フラスコ燃焼法による塩素分析の検量線作成やチェックのために使用することもあります.標準試料としては塩素の含有量は少ないほうですが,多くの未知試料の分析に適合します.
分子模型で表された立体構造
<参考文献>
キシダ化学株式会社による安全データシート(MSDS)
キシダ化学株式会社 有機元素分析用標準試料
キシダ化学株式会社 有機元素分析用標準試料
コードNo.: 210-77915
記番号: SMA-SP-7
試料名:Thiourea チオ尿素
組成式: CH4N2S
含有率%: C, 15.78; H, 5.30; N, 36.80; S, 42.12%
CHN分析の際,アンチピリンでデイリーファクターを取ってから他の標準試料の分析値に問題がないか毎測定日ごとに確認しています.その一つがチオ尿素です.窒素の含有量がかなり多いため,装置や充填剤の状態に不具合があった場合に影響が現れやすいという特徴があります.つまり,問題がないか確認するのに有用だということです.
また,硫黄の含有量も多いため,酸素フラスコ燃焼法による硫黄分析の検量線作成のために使用することもあります.主に硫黄の含有量の多い化合物の分析のために使います.構成原子数の少ない小さな分子ですが,元素分析の現場から見ると個性的でオペレーターや装置メーカー泣かせの存在ともいえます.
分子模型で表された立体構造
<参考文献>
キシダ化学株式会社による安全データシート(MSDS)
キシダ化学株式会社 有機元素分析用標準試料
不安定化合物のハロゲン硫黄分析は試料の性質に合わせて以下の方法で対応しています.1日当たりの測定本数を制限していますので,必ず事前に予約してください(お電話もしくは直接).
< 大気中で取り扱える,もしくは吸湿性の可能性がある,という程度の試料 >
→ CHN分析と同日に測定し,不一致が生じないようにします.ひょう量とろ紙での包み込みは大気中で行います.試料量を確定できれば燃焼操作までの間に吸湿した水分は水溶液の一部となり妨害しません(吸収液量は目量0.1mgの天びんを使って有効数字6桁で測定するので,吸湿した水分量は分析値に影響しません).
< 強い吸湿性もしくは空気中で取り扱えないような不安定な試料 >
→ 窒素雰囲気下で取り扱います.CHN分析と同日に測定し,不一致が生じないようにします.
(1) まず,予めひょう量して圧着しやすいように端を引き延ばしておいたパラフィルム(大きすぎると燃焼操作中に酸素ガスを浪費してしまいます)と試料を窒素バッグに入れて窒素ガスによる置換を3回行います.
(2) 窒素バッグ中で試料をパラフィルムに載せ,包み込んでしっかり密封します.多少浮きがあってもハロゲン硫黄分析なので窒素ガスを取り込んでいる分には問題ありません.
(3) 大気中に取り出して,パラフィルム+試料の質量を測定し,パラフィルムの質量を差し引いて試料量とします.
(4) パラフィルムは溶解しながら不均一に燃焼したり液中に落下したりしやすいため,ADVANCTEC No.7を12等分の扇形にカットしたろ紙でさらに包んで燃焼操作を行います.
(5) 検量線作成のための測定もパラフィルムで一旦密封したものをろ紙で包んで測定します.誤差,不確かさが相殺されるよう揃えられる条件は揃えます.
*イオンクロマトグラフィーの陰イオン分析において,通常の場合と同様ろ紙由来の塩素ピークのみ現れるためパラフィルム由来のバックグラウンドを考慮する必要がありません.