キラル金属ナノ粒子による不斉合成
不斉合成反応は、医薬品や農薬などの有用化合物の基本骨格を形成する重要な反応です。しかし、多くの触媒的不斉合成は、高価な貴金属の均一系触媒を必要とし、回収が困難、金属の生成物への混入が懸念されるなど、問題点があります。したがって、不斉合成において、高活性・高選択性を示し、回収・再利用も可能である不均一系不斉触媒の開発は、貴重な資源を効率的に活用でき、廃棄物の低減にも繋がることから、非常に重要な課題です。
我々は高分子固定化金属ナノ粒子触媒をキラル配位子で修飾した不均一系キラル金属ナノ粒子を用いた不斉合成の開発も行っています。キラルナノ粒子触媒は高い活性と頑健性を兼ね備えており、また対応する均一系キラル金属錯体触媒と異なる、キラル金属ナノ粒子触媒特有の性質も見出しています。
Review:
- Chiral Metal Nanoparticle-Catalyzed Asymmetric C–C Bond Formation Reactions
- T. Yasukawa, H. Miyamura, S. Kobayashi
- Chem. Soc. Rev. 43, 1450-1461 (2014). DOI: 10.1039/c3cs60298b
Topics
キラルRhナノ粒子による不斉1,4-付加反応


Comment
高分子固定化Rhナノ粒子触媒をキラルジエン配位子存在下で用いる事で、アリールボロン酸類のエノンへの不斉1,4-付加反応が高収率・高選択性で、担体からの金属漏出を伴わずに進行する事を見出しました。更に、Rh/Ag二元ナノ粒子触媒を用いる事で触媒活性が向上し、広い基質一般性を示せました。本触媒は深刻な活性低下することなく、回収・再使用が可能でした。 更に二級アミド部位を有するキラルジエン配位子を導入することで、不飽和エステルに対しても不斉1,4-付加反応が高収率かつ非常に高い選択性で進行する事を見出しました。本配位子は金属への配位能だけでなく、アミド部位が基質の活性化部位を担う二機能性配位子であることが考えられます。反応プロファイルや非線形効果分析など、種々の機構解明実験において、本不均一系ナノ粒子触媒系は対応する均一系錯体触媒系と異なる挙動を示し、その特異的な活性種の性質が明らかとなりました。
Access to paper
- Polymer-Incarcerated Chiral Rh/Ag Nanoparticles for Asymmetric 1,4-Addition Reactions of Arylboronic Acids to Enones: Remarkable Effects of Bimetallic Structure on Activity and Metal Leaching
- T. Yasukawa, H. Miyamura, S. Kobayashi
- J. Am. Chem. Soc. 134, 16963-16966 (2012). DOI: 10.1021/ja307913e
- Chiral Metal Nanoparticle Systems as Heterogeneous Catalysts beyond Homogeneous Metal Complex Catalysts for Asymmetric Addition of Arylboronic Acids to α,β-Unsaturated Carbonyl Compounds
- T. Yasukawa, A. Suzuki, H. Miyamura, K. Nishino, S. Kobayashi
- J. Am. Chem. Soc. 137, 6616-6623 (2015). DOI: 10.1021/jacs.5b02213
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セルロース担持キラルロジウムナノ粒子触媒

Comment
グリーンかつ持続可能な不斉触媒系を構築すべく、自然に豊富に存在するセルロースに着目し、これを担体として用いたキラルRhナノ粒子触媒の開発を行いました。従来の高分子担持触媒と異なり、銀の添加なしにRhナノ粒子は担体上に高分散し、キラルジエン配位子存在下、不飽和ケトン・エステル類に対するアリールボロン酸の不斉1,4-付加反応に対し高活性・高選択性を示しました。更に、特殊なパルスシーケンスを用いたSR-MAS(swollen resin–magic angle spinning, 溶媒で試料を膨潤させて測定する固体NMR法)分析により、ナノ粒子表面上に吸着する配位子の選択的観察にも成功しました。
Access to paper
- Cellulose-Supported Chiral Rh Nanoparticles as Sustainable Heterogeneous Catalysts for Asymmetric Carbon-Carbon Bond-Forming Reactions
- T. Yasukawa, H. Miyamura, S. Kobayashi
- Chem. Sci. 6, 6224-6229 (2015). DOI: 10.1039/C5SC02510A
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