フルオレニリデン基を活用する有機合成反応の開発
フルオレニリデン基は1級アミンの保護基として知られており、またその窒素原子α位に生成するアニオンを14π共役系で強く安定化できる能力を有していることがわかっています。現在筆者らは、このフルオレニリデン基の高い電子安定化能力に着目し、窒素原子α位に触媒的にカルボアニオンを発生させて各種炭素−炭素結合生成反応を行う新規手法の開発を行っています。
Topics
- フルオレニリデン基を有するα−アミノエステルやα−アミノホスホネートの触媒的Mannich型反応
- フルオレニリデン基を活用する単純なアミノアルカンの活性化
- フルオレニリデン基を活用するα-アミノニトリルの活性化
- フルオレニリデン基を活用するアルドール反応の開発
- 触媒的イミン−イミンクロスカップリング反応の開発
フルオレニリデン基を有するα−アミノエステルやα−アミノホスホネートの触媒的Mannich型反応

解説
フルオレニリデン基は1級アミンの保護基として有用であり、また、その窒素原子α位に生成するアニオンを14π共役系で強く安定化できる能力を持っています。筆者らは、この高い電子安定化能力に着目し、α-アミノ酸エステルやα−アミノホスホン酸エステルのSchiff塩基を調製して求核付加反応に用いたところ、従来のベンゾフェノン由来のSchiff塩基と比較して反応性の大幅な向上が見られました。これにより、フルオレニリデン基が1級アミンの保護活性化基といて極めて有効であることが明らかになりました。α-アミノ酸エステルを用いる反応は、キラル有機塩基を用いることによって触媒的不斉反応への展開も可能です。
論文へのアクセス
- The fluorenone imines of glycine esters and their phosphonic acid analogues
- Kobayashi, S.; Yazaki, R.; Seki, K.; Yamashita, Y.
- Angew. Chem. Int. Ed. 47, 5613 (2008). DOI: 10.1002/anie.200801322
フルオレニリデン基を活用する単純なアミノアルカンの活性化

解説
アミノアルカンを求核剤として用いる反応は、通常その等価体であるニトロアルカンを用いて行われてきましたが、当研究室ではごく最近、フルオレニリデン基で保護されたアミノアルカンが、触媒量の塩基存在下求核剤として機能することがわかり、Mannich型反応が高選択的に進行することがわかりました。得られた生成物は酸処理によって容易にジアミンへと誘導ができるため、本手法は含窒素化合物合成において新たな方法論を提供できるといえます。
論文へのアクセス
- Catalytic Carbon-Carbon Bond-Forming Reactions of Aminoalkane Derivatives with Imines,
- Y.-J. Chen, K. Seki, Y. Yamashita, S. Kobayashi,
- J. Am. Chem. Soc., 132, 3244-3245 (2010). DOI: 10.1021/ja909909q
フルオレニリデン基を活用するα-アミノニトリルの活性化

解説
ニトリル基はカルボン酸等価体として、また1級アミン前駆体として有用な官能基です。筆者らは、フルオレニリデン基を活用してα−アミノニトリルの活性化によるMannich型反応を開発しました。本反応も、キラル有機塩基を用いることによって、触媒的不斉反応に展開できます。
論文へのアクセス
- Catalytic Mannich-Type Reactions of α-Aminoacetonitrile Using Fluorenylidene as a Protecting and Activating Group,
- Y. Yamashita, M. Matsumoto, Y.-J. Chen, S. Kobayashi,
- Tetrahedron, 68, 7558-7563 (2012). DOI: 10.1016/j.tet.2012.06.044
フルオレニリデン基を活用するアルドール反応の開発

解説
グリシンエステルのSchiff塩基を用いる直接的触媒的アルドール型反応は、β-ヒドロキシ-α-アミノエステル誘導体を与える有用な反応です。今回、フルオレニリデン基の活性化能を活用して本反応の検討を行ったところ、対応するベンゾフェノン由来のSchiff塩基を用いた際に比べて、大幅に反応性が向上することを見いだし、弱塩基触媒であるマグネシウム塩を用いた際にも、反応が極低温下で高選択的に進行することを明らかにしました。
論文へのアクセス
- Direct-Type Aldol Reactions of Fluorenylidene-Protected/Activated Glycine Esters with Aldehydes for the Synthesis of β-Hydroxy-α-Amino Acid Derivatives,
- R. Rahmani, M. Matsumoto, Y. Yamashita, S. Kobayashi,
- Chem. Asian J., 7, 1191-1194 (2012). DOI: 10.1002/asia.201200081
触媒的イミン−イミンクロスカップリング反応の開発

解説
イミン-イミンカップリング反応は、1,2-ジアミン構造を合成する有用な手法の一つですが、従来法では化学量論量の還元剤を用いなければならず、また二種類のイミン間での反応では、ホモカップリングを抑制することが困難であり、触媒的高立体選択的イミン-イミンカップリング反応は困難でした。筆者らは、フルオレニリデン基の還元体であるフルオレニル基を有するイミンと、電子求引性の高いDPPイミンとのカップリング反応が、触媒量の塩基存在下高立体選択的に進行することを見いだしました。本反応は、初の触媒的イミン-イミンクロスカップリング反応です。この反応では、フルオレニル基がフルオレニリデン基に酸化されて反応が進行しています。
論文へのアクセス
- Catalytic Imine–Imine Cross-Coupling Reaction,
- M. Matsumoto, M. Harada, Y. Yamashita, S. Kobayashi,
- Chem. Comm., 50, 13041-13044 (2014). DOI: 10.1039/C4CC06156J