平成9-12年 文部省科学研究費補助金重点領域研究 

「炭素結合形成」


文部省科学研究費補助金特定領域研究「炭素結合形成」公開シンポジウム 平成12年6月30日

有機化学新現象

−多元素協同作用に基づく炭素共有結合形成の新機軸− 


目次

  • ポスタ−
  • 公募要領
  • 広報資料
  • 各研究項目の研究内容

     


  •  

    公募

     

    [趣旨]物質変換法の革新的進歩をはかり、21.5世紀に向けての新しい物 質科学に貢献し、よって世界をリードすべきわが国の責務を果たす。限定的な 成果を求める漸進的な研究ではなく、大飛躍の期待できる革新的な研究をめざ す。研究計画が整然とした形をとらない漠然とした提案も可とする。成功見込 みが小さくても意欲的な研究が望ましい。研究費申請額は1年間300万円程度 で。30数件の公募を採択予定。

    [研究班構成と研究対象の例]

    A01(第1班)単一金属系新反応

    典型元素、遷移金属元素、配位、配位子 不活性化学結合の活性化/新結合形 成(炭素ー炭素結合切断、炭素ー水素結合の有効利用、緩和な条件下での炭素 ーヘテロ結合の切断、炭素ー窒素結合切断の新プロセス、これらを含む新反応) 複雑な炭素骨格の一段階合成 金属活性種による有機化合物の電子状態制御  新触媒反応 新触媒系 均一触媒設計の新概念創出 不均一系触媒の新分野開 拓 その他、有機金属化合物触媒、有機合成、選択的反応、官能基導入反応な どでの画期的新反応

    A02(第2班)多元素系新反応

    多作用点および多中心反応、配位による活性化 多座配位子 新反応剤 金属 クラスターの触媒反応 自己集積、自己修復する機能分子分子認識 連続反応、 重合反応の高次制御 多成分触媒系を用いた画期的合成反応 複雑反応系の高 度な制御 前生物的化学変換 ルイス酸、ルイス塩基 その他、金属錯体、無 機合成、重合、重合触媒、天然物化学などでの新変換反応

    A03(第3班)新有機反応メデイア

    特色ある反応場の構築 酸化還元系での反応制御 外部刺激による反応制御  気相/液相混合系の有効利用 超臨界流体中での有機反応 非平衡反応系中で の合成 水中および無溶媒の有機合成 個相での炭素ー炭素結合生成 磁気、 電気、光など物理作用条件下での画期的合成反応 その他、反応場、触媒、電 子移動、電気化学、光化学、光合成などでの新展開

    A04(第4班)新反応系の合理的設計

    論理的反応設計 有機金属反応の機構解明 反応機構解析の手法開拓 生体高 分子の合理的構造改変 金属/高分子複合体の設計 不斉合成の新概念 実践 的理論化学 構造多様性を指向した合成戦略 その他、計算機化学、理論化学、 情報化学、生物有機化学、生物無機化学、構造生物化学、蛋白質、核酸、糖質 などでの炭素結合生成に関する新知見


     

    公募要領

     

    領域略称名 :炭素結合形成
    研究期間:平成9年度〜平成11年度
    領域代表者 :村井真二
    所属機関:大阪大学工学部 

     斬新な化学反応の発見開拓がこれまで合成化学の飛躍の主要部をなしてきた ことに鑑み、本領域は次世紀の有機合成の新たな背骨となるべき新化学現象・ 新反応の発見開拓を目指すものである。主要目標は、炭素原子と、炭素、窒素、 酸素、水素をはじめとする諸元素との間の、共有結合の切断・組み替えに関す る根源的な新知見の開拓である。偶然性の高い発見を目指すアプローチと合理 設計に基づくアプローチを両極とし、好奇心を駆動力とする研究と目標を駆動 力とする研究の両者を進める。

     本領域では、まず、単一金属中心における結合の切断・形成を軸とする新反 応の開発を、金属有機化学の広大な未踏領域での重要課題としてとりあげる。 ついで、組み合わせの多様さから新現象開拓の蓋然性が高い課題として、多元 素が協同的に作用する反応系の開拓を進める。さらに、反応の分子環境として の反応剤、反応場、反応媒体、反応手法などを、反応メディアという観点から 研究を行う。加えて、反応現象の背後の法則性の発見、新概念、新理論の開発、 完全合理設計など理論的アプローチを推進する。当然、各課題間にとくに境界 はなく、いずれも新形式の反応の開拓を目指す。

     このため、次の研究項目 について「計画研究」により重点的に研究を推進するとともに、これらに関連 する一人又は少数の研究者、また、若手研究者の意欲的研究を公募する。

    (研究項目)

    A01 単一金属系新反応 
    A02 多元素系新反応  
    A03 新有機反応メディア
    A04 新反応系の合理的設計


    広報資料

    スーパーリアクション!

    新現象、新原理を発見して有用物質の単段階合成を実現

    有機合成は次世紀の科学技術の基盤

    化学の本質は反応にある。すなわち分子と分子の相互作用によって誘起される 結合交代であり、分子同志を合目的的に反応させることにより新しい化合物が 合成される。炭素共有結合の生成を中心課題とする有機合成化学は過去50年 の蓄積により自己の学術的価値を越えて、天然と並ぶ物質供給源としての重要 性を獲得するに至り、医学、薬学、材料科学などあらゆる分野に大きな波及効 果をもたらす基盤的研究分野へと成長した。次世紀の科学技術の発展のために は合成化学の一段の発展が必須であることが今や各界で広く認識されている。

    多元素共同作用を多次元的に探る

    本研究で達成すべき具体的目標は、炭素原子を含む共有結合の切断、組み替え に関する新発見である。共有結合生成の新原理の発見を目指す本重点領域研究 においては、新発見の可能性が高いと予想される、多元素が協同的に作用する 反応系を重点的に研究し、その実行の枠組みとしては次のような二相よりなる 研究体制を構築する。すなわち、第一相として、新機能分子創製の座標軸とそ の機能発現の場となる反応メディアの座標軸よりなる研究局面を設定し、一方 で、新反応発見の方法論に対する考察を深めるために、いわば偶然の発見を目 指す座標軸と、化学反応の分子像の完全合理設計の座標軸を持つ相を設定し、 この第二相上での研究者間の相互作用を通して現代化学で用いられている作業 仮説を越えた新しい現象を発見する。 有機反応を取り巻く因子は複雑多岐にわたっている。本研究の成果を単なる個 別的な発見に終わらせず、確立した学術的、技術的成果とするために、第一相 の研究においては機能有機分子自体の性質に加え、それを取り囲む溶媒などの メディア、分子集合体としての反応剤の性質などにも検討する。また、反応系 の合理設計の研究局面では最近急速に発展しつつある理論化学的成果を取り入 れる。

    世界をリードする我が国合成化学

    本邦の有機合成研究は様々な局面で精力的に展開され、有機合成の本邦の優位 性は確固たるものがある。これからも先導的立場をもって世界をリードして行 く責務を負っているといえる。国内の研究環境は発見型の研究に適しており、 学術的にも実用的にもレベルの高い新形式の有機反応が見いだされている。

    相次ぐ新反応の発見

    特に有機金属化合物を用いた単位反応に発見が多く、水の中で も実施できるいくつかの革新的合成反応、さらに、実用レベルの効率を持った 炭素−水素結合や炭素−炭素結合の直接利用反応、などの新発見が相次いでお り、特に後者2つの研究は Nature 誌のニュース解説の欄にも取り上げられた。 また有機反応のメディアについての新しい観点からの検討により、二酸化炭素 を還元してギ酸を得るという直截的単位反応が超臨界状態の二酸化炭素を用い た反応で成功を見ており、安価無毒な水の中での反応、さらには溶媒を用いな いで反応物と少量の触媒のみを混ぜ合わせて進む型の化学反応の開発などでも 成果が得られている。有機化学と無機錯体化学の境界領域での多元素系化学研 究でもめざましい成果が得られている。最近本邦でその合成に成功した三次元 空孔を持つ錯体は、分子サイズで作られた反応容器とみなすことができ、空孔 内での特異的反応を設計できる。このような研究をもとに本重点領域研究では 合成化学の方法論を変革するような新反応の発見を目指す。

    社会に働きかける有機合成化学

    斬新な化学反応の発見が合成化学の進歩の本質であることを考えると、21世 紀の有機合成の背骨となるべき新化学現象、新反応発見を目的とした研究を2 0世紀末の現在行なっていくことが緊急の課題である。化学は単に「自然現象 の理解、解析」に留まらず「自然現象」に働きかけ新しいものを創造する力を 持っている。またこれが最先端の学術的成果が社会的要請に答える技術に直接 的に還元される、という有機合成化学の特徴ともなっている。本研究によって 新現象を発見できれば、その成果は将来の物質供給に役立つ新合成反応の基礎 を形作るのみならず、化学における新概念、新理論の形成という大きな波及効 果をももたらすであろう。


    各研究項目の研究内容

     

    A01 単一金属系新反応

    (代表者 村井真二 murai@ap.chem.eng.osaka-u.ac.jp)

    遷移金属と配位子によって構築される機能分子は工業的合成から生体反応まで に深く関わり、近年の化学研究の中心的テーマとなっている。過去40年にわ たる精力的な研究により、金属と有機化合物との反応の知見は有機金属化学や 錯体化学として蓄積されており、金属のかかわる有機反応が数多く発見されて きた。これらの知見は物質科学の1つの基幹的知識を形成している。しかし、 物質合成に将来期待される高度な水準と比べると、金属有機化学が果たしてい る役割はいまだ脆弱であり、自然界では金属酵素が穏和な条件で行なう化学変 換反応さえもいまだフラスコの中で再現できないといった、解決の糸口のない 課題も存在する。この嘆くべき現状は金属、配位子、反応メディアの選択にお いて無限の組み合わせが存在する金属有機化学の多様性について、これまでそ の一面の理解にしか到達していないという現状に起因している。以上のように 遷移金属の有機化学は無機化学と有機化学の境界領域として今後の継続的研究 が必須の分野である。

    A02 多元素系新反応 

    (代表者 安田 源 yasuda@ue.ipc.hiroshima-u.ac.jp)

    多元素系を巨視的な側面から見れば多段階反応の動力学制御が重要課題である。 近年の化学反応研究は結合生成の動力学的因子の高次制御によって発展をとげ、 制御困難な熱力学因子を排除することによって成功を収めてきた。本研究項目 の中心課題はこの現代有機合成におけるセントラルドグマの見直しによるブレ ークスルーの実現である。即ちこれまで反応系を単純化することによりその動 力学を精緻に制御することには成功してきたが、多数のプロセスの関係する多 段階反応の動力学の制御という点では目立った進歩がなかった。本研究分野の 一つの目標は、現状では困難を極めている多段階連鎖反応や、多数の反応が一 挙に連続して起きる複数金属触媒系などの制御を、多元素系機能有機分子によ って高水準で実現することである。 多元素系機能分子の多様な反応性に基づく発見を行ううえで標的とすべき分野 の第一は、これまで検討が進んでいない種々の典型元素を組み合わせた反応系 や遷移金属混合クラスターを含む反応系である.また周期表上の元素のあらゆ る組み合わせをもとに、これまで理解不能の異常反応とされて、効率追及型研 究では置きざりにされてきた反応の再検討、また最近基礎化学的検討が進みつ つある希土類元素を含む触媒などを利用した炭素−炭素生成反応なども検討す る。多元素系のゆらぎを考慮した研究領域では新しい触媒の概念が実現される と期待される。すなわち、分子が動力学と熱力学の支配下で集合し、自己修復 しながら触媒作用を行なって行くという、生物的性質を備えた触媒活性種や反 応系を設計することも夢ではない。

    A03 新有機反応メデイア

    (代表者 吉田潤一 yoshida@synchem1.synchem.kyoto-u.ac.jp)

     有機合成に用いられる機能性有機分子を溶かし込む媒体およびそれを取り巻 く環境は、分子そのものの性質に多大の影響を与える環境要因である。ほぼ例 外なく液相系で行われる有機合成反応では、常圧下の均一な熱的平衡系で有機 溶媒を用いて反応を実行することが常態である。この点において非平衡系、超 高圧、超臨界流体など従来に液相合成反応ではほとんど利用されたことのない 反応メディアは有機化学新現象・新発見を生む母なる海といえる。水中での共 有結合生成反応もこれまで未開拓の分野である。また溶媒を用いない反応の開 発も学術的かつ実用的見地からみて重要な研究課題である。一方,光、電気な どの外界の刺激に感応するオン/オフ制御機能を持った反応系など、新機能化 学反応系などの開拓も本研究班で目指す。   化学反応における溶媒の役割は単に分子を希釈し物質輸送を円滑にするもの 以上の役割があることは当然ではあるが、それ以上の深い考察は行われていな いことが多い。しかし、反応開発の飛躍的進歩を目指すためには溶媒等の反応 メディアの本質的理解と新反応メディアの創出が必要である。

    A04 新反応系の合理的設計

    (代表者 中村栄一 nakamura@chem.s.u-tokyo.ac.jp)

    本重点領域研究では新反応発見の方法論に対する考察を深めるために、いわば 偶然の発見を目指す座標軸と、化学反応の分子像の合理的反応設計の座標軸を おく。本研究班は後者を目指す軸として以下のような観点から現代化学の作業 仮説を越えた新指導原理を求めて独自の研究を進めるとともに、他班との相互 作用を通して新現象の体系化と科学的内容の理解を深める役割もはたす。反応 動力学、構造論、反応理論、そして斬新な経験則などをもとに堅固な作業仮説 を構築して反応系を設計し、さらにこの作業仮説を越える新有機化学反応を発 見する。 溶液系での多金属系分子集合体は多様な反応性を示しこのため反応理解の及ば ない部分が多い。反応経路は溶質や溶媒などの媒体の集合離散に大きく影響さ れるが、その論理的取扱いはまだまだ不十分であり、今後のこの分野の課題と して本研究でも鋭意取り上げて検討する。また他班で取り上げる連続反応、競 争反応などの反応系の解析も重要な課題であり、反応条件検索の自動化による ヒット率の向上に関する研究や数値解析に基づく反応速度解析の新手法を案出 して研究推進を図る。また、動力学の支配の弱い反応系に関する積極的な評価 が新しい有機化学現象発見の一つの鍵となると考え、新次元の触媒設計の土台 を形成するための研究も重要である。有機金属高分子や生体高分子のような複 雑な反応系を取り扱うためのガイディングピリンシプルの発見も本研究班の目 標のひとつである。コンビナトリアル化学という言葉に代表されるようなラン ダム系を漏らさず発生させるための反応設計も広義の合理設計と見做すことも できる。


    文部省科学研究費補助金特定領域研究「炭素結合形成」公開シンポジウム

    日 時 平成12年6月30日(金) 10:00 〜 19:30

    会 場 学士会館本館(東京都千代田区神田錦町3−28,電話03−3292−5931

                都営三田線,新宿線,営団半蔵門線神保町駅前)

     

    10:00−10:10 (開会の辞)

    10:10−10:50 中村 栄一(東大院理) 「有機合成反応の反応機構.多金属協同作用を解き明かす」

    10:50−11:30 そ合 憲三(東理大理) 「不斉自己触媒反応と極微小不斉の向上」

    11:30−12:10 山口 雅彦(東北大院薬) 「有機ガリウム化合物の新しい化学」

    12:10−13:30 (昼 食)

    13:30−14:10 大澤 映二(豊橋技科大工) 「天然フラーレン探索と思いがけない展開」

    14:10−14:50 村井 真二(阪大院工) 「新触媒反応」

    14:50−15:30 吉田 潤一(京大院工) 「炭素カチオン種の発生場と反応場の分離」

    15:30−16:10 (コーヒーブレーク)

    16:10−16:50 野崎 京子(京大院工) 「(仮)高分子担持BINAPHOSでの不斉ヒドロホルミル化」

    16:50−17:30 安田  源(広島大工) 「希土類錯体によるオレフィンと極性モノマーのブロック共重合」

    17:30−19:30(懇 親 会) 会費 6, 000 円

    問合せ先 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2−1 大阪大学大学院工学研究科分子化学専攻 村井 真二

    電話:06-6879-7397/FAX:06-6879-7396/e-mail:murai@chem.eng.osaka-u.ac.jp

     

    〒113-0033 東京都文京区本郷7−3−1 東京大学大学院理学系研究科化学専攻 中村 栄一

    電話:03-5800-6889/FAX:03-5800-6889/e-mail:nakamura@chem.s.u-tokyo.ac.jp


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    [連絡先]

    ウ565吹田市山田丘2-1 大阪大学工学部 村井真二(領域代表者)

    TEL 06-879-7397(直) FAX 06-879-7396(直)

    murai@chem.eng.osaka- u.ac.jp

    または安田源(広島工大)、吉田潤一(京大院工)、中村栄一(東大院理)

    領域略称名「炭素結合形成」領域番号283