当研究室では現在、主に4つのプロジェクトが稼働しています。
人工リボザイム
リボザイムとは、触媒機能を持つRNAのことである。リボザイムの発見以降、RNAが初期生命体の中心を担っていたとする仮説、「RNAワールド」は多くの科学者に支持されている。しかし、現存するリボザイムは、RNAの切断や連結など、リン酸関連の反応を触媒する機能に限られている。40億年にのぼる生命進化の過程で進化してきたタンパク質触媒により、多彩な機能を持ったRNA触媒は淘汰されてしまったのかもしれない。
ならば、そのようなRNA触媒を人工的に創成してしまおう、というのが本研究の主題である。つまり、人工リボザイムによるRNAワールドの構築を人工的に目指すのである。
なお、当研究室で成功した人工リボザイムの代表例が、tRNAにアミノ酸をアシル化する機能を持つ「フレキシザイム」である。
遺伝暗号リプログラミング
遺伝暗号のリプログラミング(genetic code reprogramming)とは、複数種の非天然型アミノ酸を含むポリペプチドを、翻訳系で自在に合成しようとする新概念である。 上記の人工リボザイムを用いることにより、天然アミノ酸の代わりに非天然型アミノ酸をtRNAにアシル化することが、短時間で且つ少ない労力で可能になった。この技術の確立により、これまでペプチド鎖への導入が困難であったN-メチルアミノ酸、D-アミノ酸等の非タンパク質性特殊アミノ酸を既存コドンに割り当てた、翻訳合成が可能となった。 現在、当研究室では、さらに改良を加えた次世代遺伝暗号リプログラミング技術の開発に向け精力を傾けている。
特殊ペプチドの翻訳合成
天然物として単離されるペプチドには、非天然アミノ酸を含み、且つマクロ環状化された骨格をもつことが多々ある。このようなペプチドは特殊ペプチドと呼ばれる。特殊ペプチドは一般的に高い生体内安定性と生理活性を有しており、薬剤としても需要が高い。これまで、これらの特殊ペプチド薬剤の発見は、「偶然」に頼らざるを得ず、システマティックに探索することは不可能であった。 しかし、上記の遺伝暗号リプログラミングの技術により、特殊ペプチドの配列を自由に変更することが可能になった。現在も、より複雑で且つ有用性の高い特殊ペプチド翻訳合成を可能にするシステムの開発に力を注いでいる。
特殊ペプチド創薬
上記の特殊ペプチドの翻訳合成法は、特殊ペプチドライブラリーの構築を可能にし、それをIn-vitro display系と組み合わせたRaPIDシステム(Random Peptide Integrated Discovery system)の開発に至った。現在、当研究室では、このシステムを駆使することで様々な薬剤標的に対する特殊ペプチドを単離、薬剤開発に向けたプロジェクトを稼働させている。近い将来、本技術が次世代薬剤開発の基盤技術として確立でき、日本発の「特殊ペプチド創薬」へとつながることで、社会に成果を還元していくことを目指している。