スペクトル化学研究センター
内容:
「構造化学」(教養課程)で学んだ量子論をさらに深く学ぶために、発展的な話をしたいと思います。具体的には、以下のテーマを考えています。


1. 解析力学概論
Lagrange形式、Hamilton形式を説明し、正準変換の本質を理解する。Hamilton-Jacobi方程式、経路積分の考え方を基にSchrodinger方程式を導く。 

2. 対称性と保存則
ネーターの定理、演算子の交換関係を徹底的に理解する。そして、物理量の並進に対して保存則が存在することを古典論版、量子論版について理解する。「物理学の美しさが判る。」

3. 角運動量に関わる代数学
水素原子の問題を解く際には、角運動量演算子の理解が必要となる。角運動量をあらわす演算は、Lie代数により記述される。上記2.から角運動量がつくる物理の深さを知る。また、スピンがなぜ1/2かを理解し、スピンが従う代数学についても検討する。これらは、SU(2), O(3)という群を形成する。これらの関係を数学的に理解することを目指す。

日時およびカリキュラム(講義ノート): @理学部化学本館4階講義室 
2015/2/17火(3,4限)13:00 - 解析力学全般
2015/2/18水(2,3限)10:30 -  経路積分、交換関係、調和振動子 
2015/2/19木(3,4限)13:00 - 対称性と保存則、角運動量 
2015/2/23月(3,4限)13:00 - スピン、ゲージ変換 
2015/4/01水(2,3限)10:30 - フーリエ変換、グリーン関数、他

あるとよい本:
J.J. Sakurai 現代の量子力学(上)
J.J. Sakuraiの本の内容の知識は、物理系学科では必要になります。3章の角運動量の議論は、Lie代数です。物理学ではこの程度の数学で十分だと思います。

私見: この本の好きなところは、1.1節および3.11節(第1版では3.10節)です。シュテルンゲルラッハ実験を続けると、フィルタリングされたはずの状態が復活する不思議さ(気持ち悪さ)がとても気になりました。あと、フィルターを通ると「過去の情報が全て破壊される」と略されているところがすごく印象的です。スピンの不思議さがきっかけで、今もスピン(トロニクス)の研究をしています。また、3.11節(第1版では3.10節)のテンソルと角運動量の関係の本質を理解したくて、磁気分光に興味を持ち、研究しています。内殻励起を用いた磁気分光は、CG係数が直接効いてきて、量子力学を実感できます。この先は、みんなで開拓していきましょう!

参考図書と個人的感想:
量子力学I, II (猪木慶治、河合光 著) 講談社 
演習形式で進めるので、とてもためになる。本特論の内容で、I巻の全てが理解できるかも。5章(中心力場)は水素原子の議論で、構造化学と同じです。6章(交換関係), 7章(対称性と角運動量)が好きです。私の青春の書。。

量子力学 (河原林研 著)岩波書店 
JJ. Sakuraiとほぼ同じ構成で、副読本としてよい。現在絶版のようで、古本屋に行かないと入手できない。

場の理論  (武田暁 著) 裳華房
場の量子論に特有の煩雑極まる相対論的な添字があまりなく、判りやすい。物性研究(電子物性論)ではこれぐらいで十分かと。

量子力学I, II (小出昭一郎 著) 裳華房
IIの相対論的量子論(Dirac方程式、スピン軌道相互作用の導出)は判りやすい。この本の演習書を院試前に解きまくった思い出の書。

演習 量子力学 (岡崎誠 著) サイエンス社
この本も院試前に解きまくった思い出の書。よく考えると味がある問題が多い印象がある。類似(黄本)の新・演習(阿部龍蔵著)もよいかも。

新しい量子化学 上、下 (ザボ・オストランド著、大野公男訳) 東京大学出版会
下巻の摂動論におけるファインマンダイアグラムの書き方は、院生のときに助かった記憶がある。当時、理化はこの本で勉強するのか、すごいなぁと勝手に思っていた。(東大出版の量子化学だから...) Doverの原著の方もいいかも。(安いし1冊だし)

行列と変換群 (梁成吉 著)  岩波書店 
SU(2), O(3)群について、こんなに明確な説明をしてくれる数学の本があったとは! Lie群の抽象的な数学に辟易している人に効く(私も...)。もっと早くに出会いたかった。

量子化学 (近藤保、真船文隆 著) 裳華房
「構造化学」では、真船先生の本を徹底的に読破しましたが、もう少し延長が書いてある本。次期の「物性化学」で役に立つはず。説明が明解で、原子価結合法やsp3混成軌道などを理解できる。序文によると、理学部化学科の量子化学(必修)講義ノートとのこと。

大学演習 熱学・統計力学 (久保亮五 著)裳華房
統計力学のお勧めを聞かれたので、これを挙げるしかない。これさえやれば(やれれば)OKと聞いていたので、他をあまり知らない。