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不純物をドープした遷移金属酸化物の第一原理計算

 近年、密度汎関数法に代表される固体の電子状態計算手法は、大きく進歩しました。計算機の性能向上にも、目覚ましいものがあります。こうした進歩に後押しされ、理論計算にもとづく半導体ドープ系の研究が、機能性材料の開発に明確な貢献を行いつつあります。

 半導体ドープ系は、無限系である固体中に、有限系であるドーパントが組み込まれています。ドーパントは、価電子帯や伝導帯を通じて周囲と電子の授受を行います。また周辺の電子は、誘電体として働き、ドーパントがもつ電荷や双極子を周囲から遮蔽します。単純に局所的な構造だけを考慮しても、半導体ドープ系は理解できません。遷移金属は、d 軌道に複数の電子をもち、時に複雑な挙動を示します。標準的な密度汎関数法の枠組みでは、(自分を含む)電子全体を平均場として捉えます。多電子系の平均場への近似は、遷移金属がもつ局在性が高い電子状態の記述、僅かなエネルギー安定性しかもたない電子捕捉準位の記述に問題を生じさせます。半導体ドープ系の研究では、こうした点を緻密に評価・検討していくことが欠かせません。

 当固体化学研究室では、これまで透明電極材料に焦点を絞り、研究を行ってきました。新規透明電極材料として、TiO2系やSnO2系をドープした系を対象としました。これらの物質は、元素の化学的性質が似通っているにも関わらず、結晶構造(アナターゼ構造かルチル構造か)やドーパント(周期表で隣接するNb, Ta, W等)の違い、またそれらの組み合わせによって、透明電導性の発現が大きく変化します。

 これまでの研究によって、TiO2系透明電極材料では、化学量論比の乱れや複合体形成が電子物性に大きな影響を与えることを明らかになりました。またセルサイズに対する収束性、スピン分極の影響などを注意深く扱ってはじめて、現象の再現ができることを確認しました。研究を通じて、GGA+U 法やハイブリッド法と呼ばれる計算手法の適応手順やその信頼性について、具体的な経験を積んできました。実験事実の再現については、かなりの信頼性をもって、計算を遂行できる段階に到達しつつあります。

 今後は、新規物質の提案と物性予測へとステップを踏み、最終的には物質設計の指針を得ることを目標として、研究を進めていきます。また酸窒化物の物性、ペロフスカイト系のマルチフェロエレクトリシティ、半導体界面でのイオン輸送、理論研究による仕事関数制御の試みなど、新たな研究テーマにも取り組んでいきます。