東京大学大学院理学系研究科附属 スペクトル化学研究センター
Research Centre for Spectrochemistry

2012年度 物理化学基礎Iのページ(担当;岡林潤





5/15 (火) 講義前に、レポートを受け取ります。講義室にて提出してください。それ以降の場合は、化学東館226号室に提出してください。(最終締め切り5/22)

この科目では、電子状態や磁気状態を表わす量子論を基礎から理解し、それらを実験的に 調べる手法を知ることを目的としている。スペクトルの見方、解釈に重点を置き、実例を挙げて解説する。

評価:
前半(岡林担当)、後半(佃教授担当)のそれぞれの課題(レポート)を 提出した者が単位取得の資格を得る。一方のみのレポートを提出した 場合では、未受講の扱いとなるので注意。
前半(岡林担当)については、毎週、レポート課題から2問以上回答して、 次週の講義前に提出すること。
レポートの最後に感想、質問、コメントを付けてくれるとありがたいです。質問、議論を歓迎します。レポートは都合で遅れても構いませんので提出してください。
レポートには、表紙は要りません。ただし、名前と研究室名を忘れずに書いてください。

物理化学基礎I 前半(岡林担当分)においては、4回の講義の合計で8問以上レポートとして提出すれば、合格とします。都合で出席できなかった人は、出席した回の問題を多めに解くなどにより、提出してください。

Basic Physical Chemistry I (2012)
Evaluation:
Reports submitted to Okabayashi and Prof. Tsukuda
Questions for reports are tasked every week.
The students have to submit the report every week until next lecture. Please choose two questions or more and answer them.
You have to answer for more than 8 questions for four-times lecture.

第1回  4/17
コメント:
・分子軌道から混成の重要性を調べました。H2分子がsingletになり、Feがtriplet強磁性になるのは、混成の大きさで決まることを調べました。 また、超交換相互作用も混成の有無により、相互作用の符号が変わります。
・Hertree-Fock計算の本質は、多体問題を一体問題に帰着させるところがポイントです。交換積分を密度平均した後に変分を取ると Kohn-Sham方程式が得られます。変分を行った後に密度平均を行うHF-Slaterの方法は、論理的には正しくありません。また、HFの固有値は 軌道エネルギーとして物理的な意味を持ちますが(Koopmannsの定理)、KS方程式の固有値は物理的には意味がありません。なぜでしょう!?
・2電子系のSinglet, tripletの形成過程を理解しておくと(Q1)、量子力学に少し感動するのではないでしょうか。
・1/rのフーリエ変換は、物性物理学で電子相関を議論する人には必須です。


第2回  4/24
コメント:
・Goodenough-Kanamori ruleの復習を行い、配位場の強度による多重項を議論し、田辺菅野ダイアグラムを用いた吸収スペクトルの解析法を紹介しました。
・d3-d8系180°配置にて、強磁性相互作用が生じるのはなぜか。d3なので、酸素から同方向電子が移動し、反平行の酸素スピンがd8電子と相互作用する際、3z2-r2軌道が酸素のpz軌道と重なりがあるため、交換相互作用は負になります。そのため、d3とd8イオン間の交換相互作用は正になります。
・光電子分光の原理とスペクトルの見かたを議論しました。特に、化学シフトの生じるメカニズムを理解すると、スペクトルの面白さわ判ってきます。
・Dirac方程式とスピン軌道相互作用の相対論的導出について(Q15)、ヒントを用意しました。また、量子力学II 10章に詳しく載っています。この課題は物理系の学生向けです。
・Q11について、d2の電子配置は45通りあるわけですが、ヒントを載せました。p2だと、6C2=15通りです。



第3回 5/1
コメント:
・d3-d8系90°配置での超交換相互作用を復習しました。pi結合のため、磁性イオン間は弱い強磁性結合となります。
・光電子スペクトルの議論をしました。特に、化学シフトがなぜ起こるか、を知ることは重要です。有機化合物等の構造とスペクトル形状が一致するのは、感動します!
・中性子回折、メスバウアー分光を紹介しました。
・XAFS(ザフス)、EXAFS(イクザフス)の測定原理とデータの見方、何が判るかを紹介しました。
物理系の人は、Born近似でGreen関数を使った多重散乱過程を計算すると EXAFS関数x(k)が導出できます。そうすると理解が深まります。
・XMCDでは、元素別の磁化状態が判るので、磁性化合物の元素別磁化状態を調べるのに有用です。もちろん、放射光を使います。スペクトルセンターのビームラインでもいつも測定しています。みなさんも使えます。
・トランジスタの原理を途中まで紹介しました。トランジスタの集積化は原子レベルの制御の域まで達しており、化学が必要とされています。 界面の電子状態を調べることはデバイス作製に有益な情報を与えますので、次回詳しく紹介します。有機トランジスタ、スピントランジスタなど、 Mooreの法則を超えた新しい技術が必要となっています。
・配位子場理論について、シュライバー・アトキンス 無機化学 下巻19章にも詳しく載っています。
名なしのレポートが2件ありました。該当者はメール等で申してください。


第4回 5/8
コメント:
・XPSの化学シフトについて復習しました。化合物では、各元素のスペクトルを相補的に検討でき、大変楽しいものです!?
・化合物半導体のバンドギャップの大小の系統性について、周期表を基に議論しました。余談ですが、周期表はLrまで覚えるべきです。
・超常磁性について紹介しました。ブロッキング温度について、説明を忘れていました。クラスター内は揃って、クラスター間は常磁性の状態になったときの温度のことです。
・Mn12 single molecular magnetについて紹介しました。
・強磁性金属のストーナー条件を導きました。フェルミレベルでのDOSが高い程、磁気分裂には有利です。
・Slater-Pauling曲線について議論しました。分岐する理由をいつでも説明できるようにしておいてください。
・スピネル型化合物を紹介しました。
・フェリ磁性体の補償温度について紹介しました。




参考書紹介
磁気工学の基礎 太田 共立出版
コメント: 磁性の基礎が学べる素晴らしい本です。感動します。

物質の対称性と群論 今野 共立出版
コメント: 群論(点群、空間群)をしっかり理解したい人、角運動量と配位子場理論を理解したい人にお勧め。判りやすい。

金属錯体の現代物性化学 山下、小島 三共出版
コメント: 化学の立場から配位子場理論、磁性、伝導とトピックスについてまとまっている。

・Symmetry and Spectroscopy, Daniel C. Harris, Dover $19.95

固体物理学 上中下 吉岡書店
コメント: 固体物理について、エレガントな数式の導出と物理の本質が判り易くまとまっており感動する。学生の時に出会いたかった本。座右の銘。






2011年度 物理化学特論IIのページ(担当;岡林潤)
講義スライド
2011年7月1日

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