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研究室紹介

細胞と海洋生態を精密化学で見る

 天然物とは広くは人工物を除く物質群を意味するが、天然物化学は生物由来の低分子化合物を研究対象とする学問領域である。 生命現象そのものを担う遺伝子やタンパク質などの生体高分子が一般には生物に普遍的であるのに対し、 低分子である天然物は生物種や生物環境により多種多様であり、多くはその身軽さゆえ、多細胞生物個体の細胞間で、 あるいは生態系での生物間相互で何らかの情報伝達を担っている。本研究 室では水を介した化学物質のやり取りにより生態系を構成する海洋生物に着目し、これらが作り蓄える低分子化合物を中心テーマに据え、 有機化学と分光化学を用いた方法論開発を攻め口にこうした分子の生物体内、あるいは生態系での挙動解明に向けて研究を行なっている。

研究内容

1. 海産毒の食物連鎖と生体防御

 オカダ酸(OA)はクロイソカイメンより1970年代に単離されたポリエーテル海産毒で、ここに共生する微生物の生産物、あるいは食餌由来の蓄積物であると見なされてる。OAは脱リン酸化酵素(PP)を阻害することでその毒性を発現し、海綿といえども宿主自身に対しても極めて有毒と考えられる。我々は海綿細胞内でのOAが結合タンパク質(Okadaic acid binding protein; OABP)と複合体を作ることでPPへの結合が阻害されていると想定し、この結合活性を指標に分画、精製を行なった結果、脱リン酸化酵素活性を持たないアミノ酸残基189の新規タンパク質OABP2を単離した。細胞分離実験によればOAの大部分は海綿細胞外に存在するようであるが、OABP2が細胞内に入ってきたOAを単にマスクしているのか、細胞外への輸送に関与しているのか、調べねばならないことがどんどん増えてくる感がある。今回の発見が海綿などによる共生寄主選択性、さらにその結果としての海底での多細胞生物の棲み分け機構といった一般的な海洋生態化学としての広がりに繋がることが期待される。

オカダ酸

Sugiyama, N.; Konoki, K.; Tachibana, K. Isolation and Characterization of Okadaic Acid Binding Proteins from the Marine Sponge Halichondria okadai. Biochemistry 2007, 46, 11410-11420.

2. ポリ環状エーテル構造の生合成

 サンゴ礁領域での食中毒の原因神経毒として食用魚より単離されたシガトキシンに代表される梯子状ポリエーテル海産毒は、渦鞭毛藻の異常繁殖に由来し、食物連鎖によって魚貝類に濃縮されていると考えられている。梯子状ポリエーテル構造は海洋天然物独特の骨格であり、強力な生物活性発現機構を理解する上でも、渦鞭毛藻内でどのように生合成されているかを調べる必要がある。梯子状ポリエーテル構造の生合成解明モデルとしてはイエッソトキシンを選び、渦鞭毛藻産生株に13Cや18Oのような安定同位体を培地に加えて取り込ませ、質量分析やNMRを用いてその取り込みパターンの解析を進めている。またエーテル環の環化機構については生合成前駆体を化学合成で調達した単環性エーテルであるブレミサミド生合成前駆体をプローブとして環化酵素の探索を進めている。

ブレビサミド(上), イエッソトキシン(下)

Murata, M.; Izumikawa, M.; Tachibana, K.; Fujita, T.; Naoki, H. Labeling pattern of okadaic acid from 18O2 and [18O2]acetate elucidated by collisionally induced dissociation tandem mass spectrometry,J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 147-151.

M. Izumikawa, M. Murata, K. Tachibana, T. Fujita, H. Naoki. 18O-Labeling Pattern of Okadaic Acid from H218O in Dinoflagellate Prorocentrum lima Elucidated by Tandem Mass Spectrometry,Eur. J. Biochem. 2000, 267, 5197-5183.

Shirai, T.; Kuranaga, T.; Wright, J. L. C.; Baden, D. G.; Satake M.; Tachibana K. Synthesis of a proposed biosynthetic intermediate of a marine cyclic ether brevisamide for study on biosynthesis of marine ladder-frame polyethers,Tetrahedron Lett. 2010, 51, 1394-1396.

3. ポリ環状エーテル構造の化学合成

 梯子状ポリエーテル海産毒の毒性発現機構の化学構造レベルでの解明を目的に、これらの化合物の化学合成を目指している。梯子上に連なったエーテル環は細胞膜結合タンパク質に普遍的な膜貫通ヘリックスに親和性を持つことが示唆され、ポリ環状エーテルの分子デザインと化学合成によるこの認識機構の解明が期待される。これまでにラクトン由来エノールエステルのB-アルキル鈴木-宮浦反応を基盤とする収束的エーテル環連結法に関して、連結する分子の種類に応じた反応条件の多様化、最適化によりこれを一般化することが出来た。これを鍵反応として、ガンビエロール、ブレビサミド、ブレビシンの全合成を達成し、梯子状ポリエーテル海産毒の毒性発現機構に向けた大量供給手段を確立した。

51-ヒドロキシCTX3C

ガンビエロール

ブレビシン

佐々木 誠, 井上将行. ポリエーテル系天然物の化学合成:新しい中員環エーテル構築法とエーテル環連結法の開発.有機合成化学協会誌, 2001(3), 193-200.

Takakura, H.; Sasaki, M.; Honda, S.; Tachibana, K. Progress toward the Total Synthesis of Ciguatoxins: A Convergent Synthesis of the FGHIJKLM Ring Fragmentm,Org. Lett. 2002, 4, 2771-2774.

Fuwa, H.; Kainuma, N.; Tachibana, K.; Sasaki, M. Total Synthesis of (-)-Gambierol, J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 14893-14992.

Kuranaga, T.; Shirai, T.; Baden, D. G.; Wright, J. L. C.; Satake, M.; Tachibana, K. Total Synthesis and Structural Confirmation of Brevisamide, a New Marine Cyclic Ether Alkaloid from the Dinoflagellate Karenia brevis,Org. Lett. 2009, 11, 217-220.

Ohtani, N.; Tsutsumi, R.; Kuranaga, T.; Shirai, T.; Wright, J. L. C.; Baden, D. G.; Satake M.; Tachibana K. Synthesis of the ABC Ring Fragment of Brevisin, a New Dinoflagellate Polycyclic Ether,Heterocycles 2010, 80, 825-830.

Tsutsumi, R.; Kuranaga, T.; Wright, J. L. C.; Baden, D. G.; Ito, E.; Satake, M.; Tachibana, K. An improved synthesis of (-)-brevisamide, a marine monocyclic ether amide of dinoflagellate origin,Tetrahedron 2010, 66, in press.

4. ポリエーテル化合物と膜タンパク質の認識原理

 膜タンパク質の多くは、細胞外側からの刺激により活性化され、細胞内での酵素活性の変化や無機イオン流入により細胞内での一連の生理変化をもたらす。しかし情報伝達の達成と同時にこれらは静止状態に戻るため、この活性化状態は生理的条件下で一過性であり、活性化に伴う立体構造変化に関する情報は推定の域を出るものはない。本研究室では、膜タンパク質の活性化状態に強い親和性を示す天然毒などの外因性分子を用いて活性化状態の寿命を延ばすことでその立体構造情報を取得解析し、膜タンパク質の活性化に関する構造的根拠の解明に取り組んでいる。このためここでの研究遂行の骨子は、(1)同位体など構造情報取得の手掛りが導入可能な有機合成によるリガンド分子の調達、および(2)こうしたリガンドが調達された場合での脂質二重膜内での複合体に関する構造情報取得のための方法論の開発である。前者については脂質二重膜厚に相当する分子長を有するポリ環状エーテルと膜タンパク質との相互認識における非特異性を想定して、合成的簡便さを念頭に置いた非天然ポリ環状エーテルを複数個の部品による順列組合せと鈴木カップリングにより繋げることで合成した。これらが複合体を形成する膜タンパク質の中から構造研究に適したものを選択し、想定している分子認識における一般的機構を検証するとともに、認識における特異性発現の機構を考察する。後者については具体的な対象分子複合体として、シガトキシンとこの分子の毒性発現の際の標的細胞成分とされる電位依存性ナトリウムチャネルタンパク質の組合せを念頭に置き、予想される結合部位を含む膜貫通部位とリガンド分子の双方への同位体標識、膜への再構成による複合体の調製、そしてNMRによる標識部位間の距離情報の取得で目的を達成する。

Shida, T.; Tachibana, K. Dynamic NMR study on the trans-fused eight-membered ether ring model representing G ring of brevetoxin A,Tetrahedron Lett. 2005, 46, 1855-1858.

Sasaki, M; Tachibana, K. Design and synthesis of simplified polycyclic ethers and evaluation of their interaction with an a-helical peptide as a model of target proteins,Tetrahedron Lett. 2007, 48, 3181-3186.

Niitsu, A.; Harada, M.; Yamagaki, T.; Tachibana, K. Conformations of 3-carboxylic esters essential for neurotoxicity in veratrum alkaloids are loosely restricted and fluctuate,Bioorg. Med. Chem. 2008, 16, 3025-3031.

5. 膜タンパク質再構成系としてのバイセル

 バイセルは脂質二重膜を構成するリン脂質と二重膜の端を覆う界面活性剤を特定の割合で混合することで形成されるディスク状分子集合体である。このバイセルの平面構造が最も小さな生体膜モデルとして考えることができることに着目し、膜作用性ペプチドとして知られるメリチンがバイセルに対して引き起こす変化を調べてきた。31P NMRおよび動的光散乱を用いた測定の結果、メリチンがバイセルに対して膜構造崩壊を引き起こし、その後膜融合活性を発現することを明らかにした。さらにその膜崩壊現象はコレステロールの添加により抑止できることを見出した。そして膜タンパク質バクテリオロドプシンを再構成させたところ ミセルよりもより生体系に近いことを確認した。

バイセル

Sasaki, H.; Fukuzawa, S.; Kikuchi, J.; Yokoyama, S.; Hirota, H.; Tachibana, K. Cholesterol doping induced enhanced stability of bicelles,Langmuir 2003, 19, 9841-9844.

Sasaki, H.; Araki, M.; Fukuzawa, S.; Tachibana, K. The packing of lipid chains changes the character of bacteriorhodopsin reconstituted in a model membrane,Bioorg. Med. Chem. Lett. 2003, 13, 3582-3585.

Sasaki, R.; Sasaki, H.; Fukuzawa, S.; Kikuchi, J.; Hirota, H.; Tachibana, K. Thermal analyses of phospholipid mixtures by differential scanning calorimetry and effect of doping with a bolaform amphiphile,Bull. Chem. Soc. Jpn. 2007, 80, 1208-1216.

6. スナギンチャクが蓄積するノルゾアンタミンの生物機能

 奄美大島産スナギンチャク (Zoanthus sp.) 由来アルカイド、ノルゾアンタミンは骨粗鬆症モデルである卵巣摘出マウスの骨重量、骨強度の低下を強力に抑制することが知られている。ノルゾアンタミンは濃度依存的に骨芽細胞のコラーゲン量を増大する作用を示す。そしてノルゾアンタミンによるコラーゲン量増大効果はプロテアーゼ阻害に由来し、ノルゾアンタミンはタンパク質表面に中程度の親和性を示すことが示唆された。さらに、ノルゾアンタミンの骨芽細胞におけるコラーゲン産生量の増大効果が、実際に骨形成促進作用に繋がるかを確かめるため、石灰化のモデル実験を行ったところ、ノルゾアンタミンはコラーゲンを核としたハイドロキシアパタイトの形成を促進することが分かった。

 またノルゾアンタミンのスナギンチャク内での機能を調べるために、ノルゾアンタミンがスナギンチャクのどの部分に局在しているかをMALDIイメージングマススペクトロメトリーを用いて調べたところ、表皮組織に局在していることが判明した。スナギンチャクの生息環境は亜熱帯領域の潮間帯で、捕食者や環境紫外線などの外的ストレスにさらされている。表皮組織の骨格タンパク質成分の一種であるコラーゲンと共存させると紫外線照射によるタンパク質の酸化的分解に対し耐性を示すことが明らかになった。

スナギンチャク (Zoanthus sp.)

ノルゾアンタミン

Kinugawa, M.; Fukuzawa, S.; Tachibana, K. Skeletal protein protection: the mode of action of an anti-osteoporotic marine alkaloid, norzoanthamine,J. Bone Miner. Metab. 2009, 27, 303-314.

Genji, T.; Fukuzawa, S.; Tachibana, K.Distribution and possible function of the marine alkaloid, norzoanthamine, in the zoanthid Zoanthus sp. using MALDI imaging mass spectrometry,Mar. Biotechnol. 2010, 12, 81-87.

7. タンパク質の部位特異的化学修飾

 アミノアシルt-RNA合成酵素の誤認識を利用して4-ヨードフェニルアラニンをRasタンパク質へ部位特異的に導入し、溝呂木-ヘック反応を用いてRasの標的部位に活性を保持した状態で炭素−炭素結合を新たに形成させた。最初に大腸菌のアンバーサプレッサーtRNAPheCUA を基質にして in vitroアミノアシル化反応を行い,4-ヨードフェニルアラニル化されたtRNACUAを得た.次に,この4-ヨードフェニルアラニルtRNACUA を in vitroタンパク質合成系に投入することで,32番あるいは174番のアンバーコドンが 4-ヨードフェニルアラニンとして翻訳されたRasを合成した.次に、これを基質としてビニル化ビオチンを溝呂木-ヘック反応で導入する反応条件はタンパクの高次構造を保持する添加物以外に1.6 Mのジメチルスルホキシドと80 mMの塩化マグネシウムが必須であることを見いだした。さらに同じ基質を用いて薗頭反応が成功したことを確認した。

 またN末端アミノ基のpKa値がリジン側鎖のアミノ基より低い点に着目し、ミオグロビン (1) のN末グリシンをピリドキサール-5-ホスフェート (2)で酸化してアルデヒド体 (3)とし、続いて各種トリプトファン誘導体と縮合・環化反応 (ピクテ・スペングラー反応)を行い、対応する1,2,3,4-テトラヒドロ-β -カルボリン体 (4-6) を得ることに成功した。反応生成物は質量分析およびウェスタンブロットにより同定し、CDスペクトルの結果から反応の前後でタンパク質の活性は保持されていることを確認した。

Regioselective Carbon-Carbon Bond Formation in Proteins by Palladium-catalysis; New Protein Chemistry by Organometallic Chemistry,ChemBioChem 2006, 7, 134.

A New Protein Engineering Approach Combining Chemistry and Biology, Part I; Site-specific Incorporation of 4-iodo-L-phenylalanine in vitro Using Mis-acylated Suppressor tRNAPhe. ChemBioChem 2006, 7, 1577.

Site-specific Functionalization of Proteins by Organopalladium Reactions,ChemBioChem2007, 8, 232.

Sasaki, T.; Kodama, K.; Suzuki, H.; Fukuzawa, S.; Tachibana, K. N-terminal Labeling of Proteins by the Pictet-Spengler Reaction,Bioorg. Med. Chem. Lett. 2008, 18, 4550-4555.

研究設備・主要機器

MALDI-MS

MALDI-MS(マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析計)です。
生体分子やポリマーなど高質量物質の温和なイオン化を行う事ができます。

ESI-MS

ESI-MS(エレクトロスプレーイオン化法質量分析計)です。
溶液状態の試料を高電圧下で噴霧することで、生体高分子などの非常に温和なイオン化が可能です。

DSC

DSC(示差走査型熱量計)です。
エンタルピー変化を測定することで試料の転移温度、転移熱量、反応温度、反応熱量などの情報が得られます。

SPR検出装置

SPR(表面プラズモン共鳴)検出装置です。
物質の相互作用の大小を共鳴の大きさで測る装置です。

HPLC

HPLC(高速液体クロマトグラフィー)装置です。
UVや溶液の屈折率などの変化を検出することで物質の分離、精製を行う事ができます。

遠心エバポレーター

遠心エバポレーターです。
遠心力を利用して、突沸を抑えながら減圧下で溶媒を留去し、濃縮を行う装置です。

ロータリーエバポレーター

ロータリーエバポレーターです。
溶媒の留去、濃縮に使います。

ライン

ラインです。
様々な利用法があります。
溶媒の除去、不活性ガスの置換、凍結乾燥などに使える非常に有用な装置です。

CD測定装置

CD(円偏光二色性)測定装置です。
分子の立体構造についての情報を得られます

CE

CE(キャピラリー電気泳動)装置です。

遠心分離機

milli-Q

ろ過型超純水製造器milli-Qです。

電気泳動を行う装置

光学顕微鏡

蛍光検出装置

精密天秤

μgまで精確に測定できます。

紫外可視吸光光度計

クリーンベンチ

生物系の実験を行うときに使います。

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